この日の第2試合、ミリアと女子プロレスラーである頼則セシル(よりのり・せしる)のマッチが始まる。
ミリアよりも一回り大きいセシル。背が高くすらっとしてはいるが筋肉質で俊敏さも併せ持っている。所属団体では常に大きな技と派手なパフォーマンスで観客を魅了してきた。ショートボブの茶髪でルックスもいいことから人気も高い。
一方のミリアは軽量だが、総合的な技術で勝負する。「おしっこ我慢キャットファイト」の場では結果は出ていないものの打撃、関節技、寝技、あらゆる局面に対応できるようトレーニングを積んできた。
いよいよゴングが鳴る。
「うりゃああっ!」
セシルは瞬時に距離を詰め、大きな腕を振りかざしながらミリアをつかみにかかる。つかんでから力任せに相手を投げ飛ばすつもりだった。先ほどはリング上で自慰を始めたくノ一を片手で持ち上げており、その腕力をミリアにも観客にも知らしめていた。
しかしミリアはその動きを読んでおり、すばやくプロレスラーの腕をかわす。カウンターとして鋭いローキックを繰り出してセシルの脚を狙う。セシルはその一撃に驚きつつも、体勢は崩れることなくつかみかかるタイミングを狙い続ける。
「はあっ!」
ミリアがパンチを連打する。腹にヒットしたが分厚い腹筋に阻まれたのかセシルは顔色一つ変えない。ゆっくりとした動きでミリアに向かって手を伸ばしてくる。その間に何発も腹にミリアのパンチが入っているが、どっしりと大地に根を張ったように体勢が崩れない。いくら打たれても最後には捕らえる、そんなセシルの意思が垣間見える動きだった。
舐められていると感じたミリアだが、前蹴りを多用して相手との距離を保つ。前に出ようとするセシルのタイミングに合わせてカウンターで前蹴りを当てる。蹴りをつかまれないように脚を素早く戻すことは忘れなかった。
「ちっ……!」
なかなかつかむことができないセシルが苛立って舌打ちを始めた。そしてミリアの蹴りを膝をあげてガードし、左右のワンツーから中段蹴りのコンビネーションへとつなげてきた。
セシルのその攻めに意表を突かれたミリアだがワンツーを腕でさばき、中段蹴りもガードしたものの、その一撃の重さに倒れかける。
だが、崩れた体制を利用してその場で一回転。セシルの頭部へ向けて後ろ回し蹴りを放った。
「せいいいっ!」
決まれば決着もあり得る、遠心力を利用した威力のある蹴りだった。あくまで、決まればの話である。
「えっ……!」
ミリアの動きが止まる。セシルが片手でミリアの足首をつかんでいた。ミリアが一撃必殺を狙って頭部を蹴り込んでくることを予想していたのだ。腹をいくら打たれても効果がないことをアピールしたのも布石だった。
「やっとつかまえられた」
セシルはもう片方の手もミリアの足首を持った。片足立ちとなったミリアは絶体絶命である。どうやって窮地を脱するか、考える前に身体が浮いていた。
「ぐえあっ!」
バッシイイイイイッ!
地面に水平に投げ飛ばされた。リングの端までミリアの身体が飛び、ロープにぶつかってリングの床に倒れる。そのままおしっこを漏らしても仕方ないほどの衝撃だった。セシルの追撃はないもののすぐに起き上がれず、お尻を上に突き出すような体勢になった。セクシーさを強調しているようにも見え、何人かの観客が指笛を鳴らす。

「あ、危なかった……リングの床に叩きつけられたり、投げられた先が壁だったりしたら試合が終わっていたよ」
ミリアの戦いを固唾を飲んで見守るカオリが思わず呟く。実際にセシルがすぐに試合を終わらせるような攻撃をしなかったのは、やはりプロレスラーとして試合を盛り上げたいという精神を持っていたからに他ならない。そのためにミリアに反撃の余地が残された。
セシルの力は圧倒的だが、技術においては自分の方が優れているとミリアは思った。プロレスラーが力強く相手をつかんで投げることで、試合は一気に終わるかもしれない。その圧力が十分にわかった。
(間合いを保ちながら、打撃で少しずつセシルを消耗させていってもいいんだけど……)
ミリアは考える。体格で勝る相手に対抗するときに、身体の末端を狙ってダメージを蓄積させていくのは板垣マンガでも読んでいた戦法だ。だがセシルを相手にすると決まってから、ミリアもカオリと同様にある作戦を練っていた。あとはそれをいつ実践するかである。
「はっ! やぁっ!」
ジャブを相手の鼻先めがけて放つ。当たらなくてもよく、注意を目線の先に向けてすかさずローキックで膝関節を狙う。
ビシッ!
鋭く決まった。一瞬セシルの顔がゆがむ。関節はなかなか鍛えられるものではない。足が効かなくなればプロレスラーは徐々に動きが鈍くなるはずだった。
さらにジャブを続けていくミリアだったが、セシルはそれらを顔面に受けても構わずにミリアの肩をつかむ。そしてミリアに身をよじる暇も与えず、思い切りパンチを腹にぶち込んだ。
「そうらぁっ!」
ズゴオオッ!
ミリアの腹に拳がめり込む。腰の回転で放った威力たっぷりの一撃だった。

「お、おえ、え、えぐうおおっ、おうっ、おあああっ!!」
内蔵まで届いたとおぼしきあまりの衝撃。ミリアはその場でうずくまり、嘔吐しかける。というか少し吐いていたが、あくまでおしっこを漏らしたら決着のルールである。嘔吐もスカトロのジャンルに含まれるが、そこだけは区分されていた。
「もう、もうやばい、あれをやるしかない……」
腹パンの痛みとせり上がってくる胃液をこらえながら、ミリアは決心した。



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