買い物から戻ってきたのは誰
「女子格闘おしっこ我慢キャットファイトリング」で次の試合の相手のところへ赴き、普段の様子を偵察してきた武方ミリア(たけかた・みりあ)とその友人の空手家西堂カオリ(にしどう・かおり)。
その晩、いつものようにミリアはカオリのアパートに泊まろうとしていた。寝るまでに何度もセックスすることが生活習慣になってしまっていたのである。この日ももちろん長時間愛し合うつもりだった。
「あ、ちょっと飲み物切れたからコンビニ行ってくるね」
カオリが言う。昼間は車で出かけたが、今はキーを持たずに部屋を出ようとする。服装こそスウェット姿なので不自然ではない。財布とスマホだけもってサンダルを履く。
「車で行かないの?」
「まあ運動がてら、走ってくるよ」
さすがはカオリも格闘家の端くれだ。少しの時間でもトレーニングしたいと考えるだけ見込みはあった。もっともミリアからすると、これから楽しく激しく汗をかくのにと思わなくもなかったが。
ガチャッ。
少しした後に玄関から音が聞こえた。意外と早くカオリが帰ってきたのだろうか。リビングでストレッチしていたミリアが玄関の方を向くと、やはりカオリの姿があった。
「おかえり、早かったね。何買ってきたの?」
「……」
カオリはニコニコしたまま答えない。その様子を見てミリアは訝しむ。そもそも買い物に行ったはずなのにカオリは手ぶらではないか。
ガチャッ。
「ただいまー」
なんと玄関のドアがまた開く音がして、カオリが入ってきた。ミリアは混乱し、2人のカオリの顔を見比べる。同じような顔をしている。服装は後から入ってきたカオリの方が、先ほど出て行くときに着ていたスウェット姿だ。
先に入ってきたカオリは、なんというかセクシーな着物姿だったのである。ディスカウント店の夜のグッズで売っていそうな代物だった。
「本物が帰ってきたから、もう変装は終わりでござるな」
そう言って先に入ってきていたカオリはくるりと一回転した。するとショートカットだった髪が伸び、言っては何だがカオリよりも豊満なバストを持った女性の姿に変わった。
「え、こ、この人、あたしの次の対戦相手だよ」
後から入ってきたカオリが驚き、手に持っていたコンビニの袋を落とす。飲み物の紙パックがゴトリと音を立てた。そうなるとコンビニへ飲み物を買いに行ったこちらのカオリが本物なのか。ミリアはようやく状況を把握してきた。
「さよう。曲山忍花(まがりやま・しのはな)と申す。お見知りおきを。ちなみに忍者をしているのでござる」
忍者……そう言われてもあまり現実感がなく、ミリアはカオリの方を見る。とりあえず対戦相手だと知っているカオリであれば、素性もある程度わかっているのだろう。
「うん……忍花さんは忍者だよ。まだおしっこ我慢キャットファイトリングでの戦績は少ないけど、デビューから2連勝してたはず……しかもどちらの試合もかなり早い決着だったという話だけ聞いてる」
日中はミリアの対戦相手を見て、今度はカオリの対戦相手と会っているわけか。どうも格闘家とよく会う日だなとミリアは思った。
「でも、今時忍者なんているの? 忍術とか、観光地だけに現存してると思ってた」
ミリアが率直な疑問を口にする。忍者を名乗るものが目の前にいながらのなかなか失礼な台詞であるが、ミリア本人にはそこまでの気配りはない。
「そんなことないよ。板垣版餓狼伝の序盤で主人公の丹波文七が道場破りしてた中に確か忍術道場があった気がするし」
「そうだっけか」
カオリがフォローを入れる。しばらく喋っていなかった忍花が口を開いた。
「さよう。拙者は対戦相手についてはこうやって探りを入れ、嗜好や弱点、交友関係などをあらかじめ頭に入れておくのでござる。まあ、カオリ殿とそちらのミリア殿の仲睦まじさはそれなりに知られていることでござるから、あまり目新しい情報は得られなかったのが心残りでござる」
残念そうな口ぶりだが、目元は馬鹿にしたように笑っている。ここまでのふざけた態度と所業で、ミリアは彼女を少しボコってから帰らせようかと考え始めていた。
忍者のおしっこ忍法
「ああそうだ。せっかくなので忍術をお見せするでござる。えーと、いいこと思いついた。おぬし、ちょっとそこの床の上でションベンするでござる」
「なんかやばい台詞回しね……」
カオリが何か思うことがあるようだが、ミリアは忍花に指名されて驚いてしまった。
「えっ、あ、あたしっ? ここで、おしっこするの?」
ドギマギとするミリア。カオリとはプレイの果てにおしっこをかけ合ったりすることもあるのだが、こうして第三者が見ている場で、しかもカオリの家の床に放尿するというのはなかなかできそうなことではなかった。
「いいよミリアちゃん。わたし、対戦相手の忍花さんの忍術を先に見られるなら、あとから床を掃除するぐらい我慢するよ」
カオリが覚悟を決めたような表情でうなずく。そう言われると、ミリアとしてはおしっこするしかない。ゆっくりとその場でパジャマのズボンを下ろしていく。
「じゃ、じゃあ、おしっこするよ、んっ、んうっ……♡ くふうっ……♡!」
ミリアが目を閉じ、下半身に力を込めた。黄色い水の玉がおま○こから流れ落ち始めた、そのときである。
「忍法! 滝枯らし!」
ビシビシビシッ!
いきなり忍花がミリアに近づき、首筋、おなか、そして頬を高速で指で突いた。
「いた、えっ、えっ……?」
なんと今にもミリアの股間からあふれ出しそうだったおしっこが、勢いを急激に失い止まってしまったのだ。それはまるで滝が枯れてしまったかのようだった。
「ふふふ、忍法滝枯らしは人間の身体にある経穴を押す忍法でござる。尿を止めるには3つの経穴を刹那とも言われる短い時間で打つことが必要。それによって尿の排出に使われる筋肉を固めてしまうのでござる。この技をなし得るのは我が曲山忍術のみなのでござるよ」
「す、すごいけど、で、出なくなっちゃった……♡ ねえ、これ、治るのぉ……?」
忍花の解説を聞きながら、うんうんと唸っておま○こ周りの筋肉を動かそうとするミリアだが、やはりおしっこは流れてこない。さすがにこのまま過ごすとなると健康に悪そうだ。カオリも心配そうな顔で状況を見ている。
「心配無用。時間が経てばおま○こ周辺の筋肉も緩んでくるでござる。さすればおしっこもやりたいようにできるでござるよ」
「おま○こは普通におま○こって言うのね」
カオリがツッコミを入れる。忍花は帰るつもりなのかドアに向かって2、3歩ほど進んだが、思い直したように振り向いた。
「ふふっ、いい機会なので曲山忍術の神髄をお見せするでござる!」
そう言ってしゃがむミリアの方へすごいスピードで駆け寄ってきた。
「忍法、堤破壊蟻穴(つつみはかいぎけつ)!!」
忍花はミリアのおっぱいの上あたりの胸元を目にもとまらぬ早さで突き、さらに片腕を回して右肩の後ろ、それと同時にもう片方の手で左の耳たぶを指先で突いた。
「あ、あひいいっ♡!! ひあっ! だ、だめ、ひあああああっ♡♡!! でる、いっぱい、でちゃううっ♡♡♡!!」
プッシイイイイッ!
せき止められていたミリアのおしっこが、一気に股間から噴出した。半分脱いでいたパンツもろとも、カオリの家のラグマットを汚していく。
「だめぇ……♡ あたし、おしっこだしすぎて、ひからび、ちゃううっ……♡ ふううぅぇっ♡」
シャッ、シャァッ♡
ミリアが全身を震わすたびにおしっこが虚空に向かって飛ぶ。一部始終を見ていたカオリの頭の中には、やはり掃除しなければならないかという落胆と、忍花の技の切れ味への恐れとの2つの感情が渦巻いていた。
「お、恐ろしい技……あまりいいネーミングとはいえないけど」
「蟻の穴から堤も崩れるということわざがござってな。わずかなほころびですべて台無しになるという内容であることはご存じでござろう。そこから着想を得て拙者が命名した技でござる。先ほど同様にある場所の経穴を速く突くことで、尿の噴出を止めていた筋肉をすべて緩めて失禁し放題にするのでござるよ」
こんな技を「女子格闘おしっこ我慢キャットファイトリング」の場で食らったら、その時点で敗北は間違いない。次の対戦ではなんとか食らわないようにする方法を考えなければ。カオリの顔に緊張が走る。
「では、さらばでござる。ご友人によろしくお伝えくだされい。出し切れば小水は止まるでござろう」
「あひっ、あ、きもちいっ、ひいいっ♡ あはうっ♡!」
忍花は入ってきたドアを開けてあっさりと出て行く。
敵が去っても真剣な表情のカオリとは対照的に、ミリアは一人床に向かって自らの小便をまき散らし続けていた。
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