おしっこ我慢キャットファイトリング21-1:合宿へ

「かんぱーい♡」

カオリの部屋で飲んでいるのはカオリの他にミリアと忍花だ。おしっこ我慢キャットファイトリングのトーナメントが開催されるとのことでその予選に挑んだ3人だったが、めでたく3人揃って審査を通過した。今はその祝勝会の最中だ。
忍花は彼女らが呼んだわけではなかったが、どこからかカオリの連絡先を知って電話してきた。ミリアに礼をしたい、酒を持参する、そういった名目で仲間入りしたのだった。
ミリアがビールを買ってきて、カオリとともに飲んでいる。忍花も言ったとおりに酒を持参してきたが、先日飲んでいたストレンジ・ロゼでも日本酒でもなく、ウイスキーだった。

「普段から仕事で嫌なことがあったらこれを飲んでいるのでござるよ。結構高かったので心して飲むように」

「どういう立場なんだあんたは」

ミリアにはよくわからないが、モルトウイスキーの12年だと忍花は言う。琥珀色の瓶にはまだ半分ほど残っており、それを左右に振って見せた。

「普段の嫌なことって……どういう仕事してるの? もしかして俳優業とか?」

カオリが尋ねる。ミリアのセシル戦の前のように対戦相手を調べることに抵抗のないカオリだが、彼女がそれを聞くということは調べきれなかったのだろう。酔いが回っているのかカオリは頬を赤く染め、机に体重を預けて上目遣いだ。それがなんとも艶めかしく、ミリアは少し興奮した。

「仕事でござるか……じつは工場で旋盤を動かしているでござる。もう8年ほどになるでござるかな」

「現業ってことか。いいじゃん、手に職があって」

ミリアはもともとフリーター兼格闘家で、キャットファイトリングに参戦してからはバイトを辞めて稼ぎのほとんどをリングから得ていた。
カオリは派遣社員である。メーカーの営業事務として街中のビルに週3日は通い、2日は家でリモートワークをしている。いずれにしろ戦績がさほど良くない2人はさほど裕福ではなかった。

「今回のトーナメントはチャンスでござる。これで結果を残せば普段の興行のメインイベントを任せられるようになるやもしれぬ。なんとしても優勝、いや、入賞、いや、1回戦突破を目指すでござる」

「どうして目標がどんどん下がっていくんだよ」

忍花も並々ならぬ決意でトーナメントに臨むようだ。ミリアはカオリの厚意に甘えているところが多いと自覚しており、なんとか一発当てたいという気持ちがある。カオリは寿退職を目指してはいたものの、ミリアと深い仲になってからは現状のままが続いてもいいように思い始めていた。とはいえせっかく予選を通ったからにはいい結果を残したい。

「しかし、キャットファイトリングにおけるあたし達の成績ははっきり言って悪い。あたしは連敗の後ようやく1勝しただけだし、カオリは通算2勝で……何敗だっけ?」

「それは、ごにょごにょ」

言葉を濁すカオリ。忍花に勝った試合でようやく連敗脱出できたのだ。ミリアに初めて会った日も試合では負けていた。

「忍花はどうなの? 確かデビューから忍法を使って連勝してた期待のニューカマーだったと聞いたけど」

「実は先日の試合でカオリ殿に敗れてから、その、リングの上や下で自慰をしていたことを叱られてしまい……もう少しで干されるところだったのでござる。おとがめはなかったのでござるが以降は試合にも出してもらえずで」

ミリアは飲んでいた酒がだんだんまずくなってきたように感じた。自分が振った話題とはいえ空気が重い。

「拙者は対策もしたのにカオリ殿に負けたのがショックで、つい我を忘れたということで説明をしてござった。運営にも納得された風だったのにやはり干されているのでござろうか。おお、ああ、なぜ拙者はあのようなことを」

暗い。忍花が暗い。ミリアとしては彼女はもっと脳天気な忍者だと思っていたのだが。酒が入ったことで負の感情が強く出ていそうだ。同席を許可したのは失敗だったかと考え始めた。

「ねえミリアちゃん、なんだかあたしまで悲しくなってきたよ」

カオリがしなだれかかってくる。彼女の身体の重みもほのかな香水の匂いも艶めかしい。
ミリアはカオリの肩に手をやると、酔っ払っているのか少し体温が高く感じた。忍花がこの場にいなければ、今すぐ服を脱いでぐちょぐちょとした夜を過ごせそうだったのにとミリアは後悔した。ただ、このようなくらいムードにした責任はある。ミリアはかねてより考えていた計画を話すことにした。

「やっぱり、あたしたちもこのまま漫然と時を過ごしてトーナメントを迎えるわけにも行かないと思うんだ」 

突然立ち上がるミリア。支えを失ったカオリは横に倒れそうになるが、体勢を立て直してミリアを見た。忍花は手酌のウイスキーがなくなりかけるぐらい飲んでいたものの、いったんその手を止めた。

「しかし、トーナメントは2ヶ月後でござる。対戦相手が不明ゆえ、その間は基礎修行しかすることがないと思っていたでござるが……ミリア殿は特訓でもやろうという気でござるか」

「そう、そこで合宿だよ」

ミリアが高らかに宣言した。

「あたしの武方流道場は今は開店休業状態なんだ。来週からみんなでそこへ行って、新技研究とか体力作りとかをやろうよ。一週間ぐらい」

「開店休業状態って…お弟子さんとかいないの? 門下生から授業料を取ってるのかと思ってたわ」

カオリはガバガバとビールを飲み続けてだいぶ酔いが回ったのか、机に伏してたまに顔だけを起こしてミリアを見ている。目つきもトロンとしており、このまま眠りの中へ沈没していきそうだ。

「あたしがキャットファイトリングに参戦するときにいったん弟子全員との契約を打ち切ったんだ。教えられる人がいなくなったしね」

「そ、そうだったのね」

そう言ったミリアからは不退転の決意が感じられなくもなかったが、参戦してから実際は試合で連敗続きな上に夜にはカオリとの貝合わせに精を出すという、弟子が聞いたら嘆きそうなていたらくである。

「ミリア殿もカオリ殿も、肝心なことを忘れているでござる」

渋い顔をして忍花が言った。

「来週から行くのでござるよな……今は、12月なんでござるよ」

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