おしっこ我慢キャットファイトリング21-2:合宿所に到着

「いーっくしょい! ミリア殿ぉ……まだ着かないのでござるか」

忍花がくしゃみをする。くノ一のような薄手の服ではなく今日はダウンジャケットを着ているが寒いものは寒いのだ。肩からボストンバッグを提げている。着替えや化粧道具などを持参しているのだ。

「だいたい冬に合宿してもつらいだけなのではござらぬか。手にはあかぎれができ、投げられたら身体に擦り傷ができるでござる」

「いいんだよ。冬の方が好都合なんだ」

ミリアはジャンパーのポケットに手を突っ込み、前屈みになって歩く。彼女もカオリも大きなリュックを背負っている。合宿のために準備してきたものだ。合宿場所である道場の場所を知っているのはミリアだけなため、どうしても先頭で歩かざるを得ない。彼女は後ろにカオリを歩かせており、自ら風よけを買って出てやったつもりだった。

「寒いとすぐにおしっこに行きたくなるからね……それを耐えるのも修行さ」

最寄りの駅まで電車で移動した。無人駅を出て海沿いを歩く3人。冬の海は寂寥とした静けさの中にも厳しさを秘めている。空は鈍い鉛色に覆われ、切れ間から太陽が出て波間に冷たく光をさした。

「もうおしっこしたいでござる……駅でしたばかりでござるのに」

この日の風は刺すように冷たく、頬をかすめるたびに凍てつく感覚を覚えて忍花は震える。風が海面を乱し、灰色の波が荒々しく押し寄せては返す。海岸に打ち上げられた流木や海藻が寂寞感をより一層強めていた。
遠くに見える防波堤の先端には錆びついた灯台が立っている。彼女らはそこに用はないが、灯台はかすかな光を放ちながらもどこか疲れたような佇まいで職務を続けている。

「こう言っては悪いけれど、冬は何もないのね。寂しいというか」

「うん……夏は観光客も来るし、そこの海で泳いだり釣りしたりしてる人もいるよ。今日は近くの旅館で泊まるから。道場にはもうちょっとで着く」

大きな音を立てて波しぶきが高く舞い上がった。その滴が冷え切った空気に霧となって溶け込む。遠くには漁船の影がちらりと見えた。
カオリが言ったとおり辺りに人影はほとんどなく、遠くでカモメが鳴く声だけが単調に響く。海岸沿いに伸びる松林をミリアは一瞥した。寒風にさらされて音を立てて揺れている。その音が潮騒と混ざり合い、冬の海の物寂しさをいっそう引き立てる。

「ほら、見えたよ。あそこだよ」

ようやくやってきたのはミリアの武方流道場だ。道場での稽古と聞いたときには門下生が稽古をしているものだと思い込んでいたカオリと忍花だが、これまでの道中で無人の道場で寂しく3人で修行する覚悟ができており、どことなく悲壮な雰囲気を漂わせていた。
戸を開けると少しのほこりっぽさが鼻に漂う。木造の梁はところどころ黒ずみ細かなひび割れが走っている。床板は無数の足跡に磨かれ、艶を帯びてはいるものの、微かに軋む音が足元から伝わってくる。

「これはまた、年季が入っているのね」

「うちの親の代からの道場だからね」

「あ、親からなんだ……そこまで昔からじゃないんだね」

江戸や明治の時代から伝えられた拳法というのを期待していたカオリだが、どう返していいのかわからない表情だ。ミリアがここを離れてから数ヶ月にわたり閉鎖されていたであろう道場。掃除するものもいなかったようだが、無人だった期間がそれほど長くなかったのか、あまり汚れていない。
奥の柱には大きな柱時計が掛けられているがすでに時を刻むのを放棄している。静寂の中、聞こえるのは外の波の音だけだ。

「お、おお、あれはストーブではござらぬか。早く付けようぞ」

石油ストーブが3台固まって道場の隅に置かれていた。それを見つけた忍花が早速駆け寄ろうとするが、ミリアに手で制された。

「だめだめ。暖かくなったら特訓にならないよ。トーナメント会場がもし屋外だったらどうする? 寒さに慣れておしっこを我慢することで、優位に立てるかもしれないんだ」

「ぐ、ぐむー……しかし、ここまで歩いてきたのでござるから、身体の芯が冷え切っているのでござるよ」

諦めきれない忍花。ダウンジャケットを着たまま身体を抱くように腕を巻いて震えている。一方のミリアはいち早くジャンパーを脱ぎ、道場の隅に畳んで置いていた。カオリはどうするべきか思案しているようだった。

「よし、じゃあこうしよう。今からあたしと忍花で勝負だ。忍花が勝ったらストーブを付けていい。でもあたしが勝ったらそのまま特訓しよう。そして勝った方がカオリとの組み手になるよ」

「よ、よし、乗ったでござる」

忍花がダウンジャケットを脱ぐ。下は白のニットとデニムパンツだ。ミリアはすでに黒いカットソーとイエローパンツの姿だ。ジャンパーの下が動きやすい服装だった。着いてから20分も経っていないが、早くも本格的な試合の開始されそうだ。カオリは次に自分の番が回ってくることになり、焦っていた。

「拙者はあまり戦い向きではない服装なので、着替えさせてもらうでござるよ」

「ああ、あっちに更衣室があるから」

ミリアが指を指した方のドアに忍花は入っていく。着替えをしているはずだが、途中で妙な呻き声が聞こえたことをカオリは不思議に思った。

「あたしももうちょっと動きやすくなろうかな」

道場の中でミリアは着替え出す。ややゆったりとしていたイエローパンツを脱ぎ、持参してきたスパッツを穿いた。さすがに寒いのか、その場で数回ジャンプして身体を温める。カオリはまだ自分のジャンパーを脱ぐつもりはなさそうだった。

そうこうしているうちに忍花がいつものくノ一の装束で現れた。半袖の上に足も太ももから下が露わになっている。道場の中は隙間風が容赦なく入ってくる。早く身体を動かさなければ危ない服装だ。

「お互い準備できたようだし、始めようか。いつものキャットファイトリングと同じく、漏らした方が負けね。カオリ、合図をお願いするよ」

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