「ふえ、ふええぇっ♡ また、漏らしちゃったよぉっ……♡」
そう言ってこの日何度目かのおしっこの自己申告をしたのは、陸奥みさお(むつ・みさお)ちゃんだ。
今は僕の親戚の寺で、怖い話を聞かせ合っている。時刻は夜の11時。今夜はこれが終わったら寺に泊まる。
これは高校のオカルト研究会が夏休みに行っている恒例行事なのだ。盆の時期に行っている怪談会で、名前を「盂蘭盆幽霊語り」としていた。
百物語にしたかったが、体力的に我々高校生ではきついし話すネタを覚えきれない。部員10人で合計50話ほど話せば十分といえた。
ここに部員の陸奥南那(むつ・なな)の妹のみさおちゃんも参加したがってついてきたのだ。
「もー、しょうがないわね。みさお、今日で何枚目?」
「ふえ、ふええぇっ♡」
みさおちゃん自身は怖い話を持っていないため、我々オカルト研究会部員の語る怖い話をひたすら聞いていくことになる。
しかしこの子、かなりの怖がりな上に問題があった。
ちょっとびっくりしたり怖さを感じたら、その場でお漏らししてしまうのだ。しかも姉である南那によると、たまに夜中にもお漏らししてしまうことが未だにあるとのこと。
大人でも夜尿症になる人はいて、何かの疾患や睡眠障害、自律神経の乱れなどが原因であるとも言われるため、みさおちゃんのそれを揶揄してはいけないのだとは思う。
「これでおむつがもう、6枚目だぞ……すごいな」
「ううっ、だってみんなの話が怖いんだもん」
そう、みさおちゃんは我々の話を聞いて怖さを感じたら、お漏らししてしまうのである。それが事前にわかっていたから、この幽霊語の会場である寺におむつを持参してきたのだった。大人用サイズを24枚も持ってきており、さすがに我々部員たちも驚いた。
でかいビニール袋を持ってきて、何が入っているのか不思議だったわけである。中身がおむつだったのだ。
しかも24枚のおむつ全てを使い切るとまではいかないが、半分以上使うのではないかというペースなのである。幽霊語りが始まってから2時間ほど経ち、30話ほど消化したがこの時点でおむつを5枚おしっこまみれにして、6枚目を穿いているところだ。
「はい、みさおちゃん、穿き替えてね」
僕の彼女である戸原えれな(とはら・えれな)がみさおちゃんに新しいおむつを渡す。さすがに最初にお漏らししたときはみんなみさおちゃんを心配したが、6枚目ともなると結構ぞんざいな扱いになる。えれなも普段は優しい女の子なのだが、話の腰が折られまくるのに辟易しているのか、おむつを投げてよこすような対応だ。ちょっと怖い。
「じゃあ次の話は誰だっけ」
「あっ、私だわ」
みさおちゃんの姉、部員の陸奥南那の番だ。彼女ならば妹のみさおちゃんが漏らすような怖い話はしないのではないか。他のみんなもそう感じたのか、少しほっとしたような空気が流れる。
果たしてどんな話が飛び出すのか。そしてみさおちゃんは漏らさずに聞き終えることができるのか。
南那の話が始まる。
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