お盆の怪談会「盂蘭盆幽霊語り」ももう3時間を超えた。20時に開始したからもう少しで日付が変わることになる。
部員の1人の妹の陸奥みさお(むつ・みさお)ちゃんはよく漏らすため、おむつを着用してこの場に臨んでいる。
部員が代わる代わる怖い話を語っていくことで場が進んでいく。次に話すのは僕の番だ。
先ほどみさおちゃんはどうも後ろが気になっていたようで、夜の闇をチラチラと見ていた。僕が見てもただ暗い空間が広がっているだけだった。みさおちゃんが心配ではあるが、話を始めよう。
自転車置き場の霊
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俺が地元の駅の待合室で座っていたときに、変な男に話しかけられたんだ。
「なあ、お前、自転車置き場に幽霊が出るって噂、聞いたことあるか?」
男はふとした雑談のように言葉を投げかけてきたが、その目は妙に真剣だった。俺は軽く首を振って答える。
「いや、聞いたことない」
「そうか……まあ、普通はそうだよな。でも、俺は見たんだ」
男の声が低くなり、周囲の喧騒が急に遠ざかったように感じた。待合室には他にも客がいたはずなのに。
彼は小さな溜息をついて話を続ける。
「夜、終電で帰ってきてさ、自転車を取りに行ったんだよ。で、俺の自転車のそばに誰かがいるのが見えたんだ。白いワンピースを着た女でさ、背中向けて立ってるんだ。そいつ、ずっと動かないんだよ。なんか気味が悪いなって思ったけど、まあ酔っ払いかなんかだろうって近づいたんだ」
男は言葉を詰まらせ、少し沈黙が続いた。俺はだんだん身体が汗ばんでくるのを感じた。その日は暑かったんだろうか。しかし待合室には冷房が効いていたような気もする。思い出せない。
男はなかなか続きを話さない。その目は何かを思い出すように遠くを見つめている。
「……近づいていくと、急にその女がこっちに向き直ったんだよ。顔が真っ黒で、目も鼻も口もない。……いや、違うな、あるんだけど、まるで影の中に沈んでるみたいで、見えないんだ。俺、全身が凍りついて、その場で足が動かなくなった」
彼の声が震えているのが分かる。俺も不気味な感覚に襲われ、冗談はやめろと言って笑い飛ばしたくなったが、何も言えなかった。
だんだん目の前の視界が揺らいできた。夏の日の陽炎みたいな感じだ。男の顔がよく見えなくなってきた。
「そいつ、ゆっくりと俺の方に近づいてきたんだ。音も立てずに、ただ近づいてくる。俺、もう駄目だと思った瞬間、ポケットの中で携帯が鳴ったんだ。ビクッとして電話を取ろうとした瞬間にそいつ、いなくなってた」
男は顔を拭い、息をつく。
「それからだ、自転車置き場に行くたびに、そいつの気配を感じるようになったんだ。背中に冷たい視線を感じる。だけど、二度と振り向けなくなったよ。今も、そこにいる気がしてさ」
俺は言葉を失い、ただ男の顔を見つめていた。彼の目には、恐怖が色濃く残っていた。
それからどうしたって? 男は立ち上がってどこかへ行ってしまったよ。同じ電車に乗ってくるのかと思ったが、乗らなかったみたいだ。俺も積極的には探さなかったけどな。
不思議なことに、あれからその男の顔を思い出そうとしてもできないんだよ。
話の内容とか声とかは覚えてるんだけど、男の顔だけは真っ黒で、目も鼻も口もないんだ。
あれはいったい、何だったんだろうな。
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「あっ、あ、あぁっ……♡ んくっ♡」
僕が会心の怖い話を披露したところだったのに、女の喘ぎ声でムードが一変してしまった。とっておきの怖い話でわざわざ後にとっておいたのだ。
誰がこんな不埒な声を出しているのかとメンバーを見回すと、一人だけ様子がおかしな女の子がいた。みさおちゃんだ。
「あぅ、あんっ♡! あ、ふああっ♡! あ、あっ……♡」
手を股間にやって唇を噛みながら震えている。まさかまたお漏らししたのか。
「みさおちゃん、大丈夫か?」
とりあえず声をかけてみる。それには応えずにピクン、ピクンと身体を震わせるみさおちゃん。
話の感想も聞けずに少し僕は落ち込んだが、それを表には出さない。
パンツの中を確認
ともかくここまで話を中断させられては、もう続行よりも仕切り直した方が良さそうだ。僕は顔の前で両手を振り、皆にいったんストップすることを告げる。
止める原因となったみさおちゃんを傷つけていなければいいと思い彼女の方を見たが、みさおちゃんは目を閉じて口ではあはあと息をしている。夏の蒸し暑い夜とはいえ、頬が赤く染まり、かなり汗もかいていて少し心配だ。
「ちょっとみさお、また漏らしたの? 何回目なのよもう……」
みさおちゃんの姉、陸奥南那(むつ・なな)が助けに入る。僕の彼女の戸原えれな(とはら・えれな)も、みさおちゃんが持参してきたおむつを鞄から出した。着替えの準備は万端だ。
「はい、みさおちゃん、あっちで着替えようか」
えれながみさおちゃんの手を引いて隣の部屋まで消える。憑かれていそうだし、もしかしたら眠いのかもしれないみさおちゃんを着替えさせてやるつもりなのだろう。優しい彼女だ。
「えっ、え、あ……そうなの……」
隣の部屋からえれなの驚いたような声が聞こえた。みさおちゃんの声は聞こえなかったので、小声で喋ったのか、あるいはえれなが何かを確認したのだろうか。
しばらくして、浴衣の帯も整えた状態でみさおちゃんが現れた。後ろから入ってきたえれなは何やら難しい顔をしている。
「ありがとな。みさおちゃん大丈夫だったかな?」
隣に座ったえれなにこっそり聞いてみた。僕に答えるかどうかしばらく考えた様子で畳を見つめていたえれなだったが、口を開いた。
「あのね、みさおちゃんがお漏らししてたのかと思ったのよ。実際におむつは濡れてたし……でも」
口ごもるえれな。続きが気になるし、何より僕の話が途中で止まっており部員の皆もそれを待って暇そうにしている。早く答えを聞いて話に戻らなければ。
少しの沈黙の後、えれなが僕に耳打ちしてきた。
「その、濡れてはいたんだけど、粘ついたというか……愛液で濡れてたの、おむつ」
「えっ、それって……じゃあ、さっきからみさおちゃんの様子がおかしかったのは」
僕も小声で応じる。えれなは言いたいことが伝わったという手応えがあったのか、僕に向かって頷いた。
「うん……なんて言うか、エッチな感じで興奮して、濡れてたみたい……」
僕は驚いた。さっきの話はかなり怖い内容で、みんなをゾクゾクとさせるぐらいのとっておきの話だったはずだ。決して股間を熱くさせるようなエロ話ではない。僕が悩んでいると、みさおちゃんがぷるぷると震えだした。まさかこれは。
「あっ、もれ、ちゃうっ♡ あ、ごめん、なさいっ♡♡ ああぁっ♡♡!」
ジョバ、ジョバアッ!
せっかく下着を替えたみさおちゃんが豪快におしっこを漏らした。
「これ、一回お開きにした方がよくない?」
えれなが呆れ顔で言った。
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